悪意の受益者の問題に関する裁判所の判断はどうなっていますか?

結論から言って貸金業者が悪意の受益者ではないとされることはほぼないと考えられます。以下、少し長くなりますが説明します。

1 最高裁の示したルール

最高裁第二小法廷平成19年7月13日判決は、貸金業者が制限利率を超過する利息を受領したが、その受領につきみなし弁済の規定の適用がない場合、特段の事情がない限り、貸金業者の悪意が推定されるとの判断を示しました。貸金業者に厳しい判断です。

そこでまず、みなし弁済のことについて説明します。

2 みなし弁済について

⑴ みなし弁済とは何ですか?

みなし弁済とは、簡単に言うと、貸金業法43条1項の要件を満たしていれば、利息制限法を超える金利を取ってもいいですよという制度です。貸金業者は本来なら利息制限法を守らなければいけないのですが、昭和58年の出資法の金利引下げにともない 貸金業者が不利益にならないようにとの政治的配慮からみなし弁済制度ができたと言われています(なお、みなし弁済の規定は平成18年の貸金業法改正により撤廃され今ではありません。)

⑵ みなし弁済が認められるための要件とは何ですか?

①被告が消費貸借契約時に貸金業者であったこと、②①の契約は被告が業として締結したものであること、③弁済は原告が利息等として任意に支払ったものであること、④契約締結の後、被告が原告に遅滞なく貸金業法17条所定の契約書面(17条書面)を交付したこと、⑤弁済のとき、被告が原告に直ちに貸金業法18条所定の受取証書(18条書面)を交付したことです。

そして、17条書面には法律上、「返済期間、返済回数」「返済金額」等を記載しなくてはならないことになっています。

⑶ リボルビング払い方式とは何ですか?

多くの貸金業者はリボルビング払い方式で貸付けを行っています。

リボルビング払い方式とは、一定の与信枠の範囲内で自由に反復借入れができ、基本契約に基づく全貸付けの残元利金について返済期日に最低返済額および経過利息を支払えばよいとするローン形態です。そうなると残元利金についての返済期間や返済金額等については、債務者が今後追加借入れするかどうか、毎月の返済期日にいくら返済するかによって変動するので、多くの貸金業者は、返済期間、返済金額等を確定することはできないと考え、当初、リボルビング払い方式の場合には17条書面に確定的な返済期間・返済金額等を記載していませんでした。

⑷ リボルビング払い方式の場合は17条書面に返済期間・返済金額等を記載しなくてもみなし弁済は認められるのですか?

この点について最高裁第一小法廷平成17年12月15日判決は、リボルビング払い方式の場合でも17条書面には返済期間・返済金額等の記載が必要であるとした上、個々の貸付の時点での残元利金について、最低返済額及び経過利息を返済期日に返済する場合の返済期間、返済金額等を記載することは可能であるからこれを返済期間、返済金額等の記載に準ずるものとして記載すべき義務があったとの判断を示しました。

最高裁はこのような記載をすることによって、借りた人は、個々の借入の都度、今後追加借入れをしないで最低返済額及び経過利息を毎月の返済期日に返済していった場合、いつ残元利金が完済になるのかを把握することができ、完済までの期間の長さ等によって、自己の負担している債務の重さを認識し、漫然と借入れを繰り返すことを避けることができ、確定的な返済期間、返済金額等の記載に準じた効果があるのだとしています。

そのため、従来の貸金業者のリボルビング払い方式で確定的な返済回数、返済金額等の記載をしないという取扱いは適法な17条所定の契約書面の交付であると認められず、みなし弁済とは認められない状態が続いていたということになりました(なお、貸金業者の多くは17条書面の記載をこの平成17年の最高裁判決に先立って改訂し、確定的な返済期間・返済金額等の記載に準ずる記載をするように運用を改めていました。)。

3 平成17年最高裁判決が出る以前は、貸金業者がリボルビング払い方式の場合に17条書面の返済期間・返済金額等の確定的な記載はしなくてよいと考えていたとしてもやむを得ず、悪意の受益者とは言えないのではないでしょうか?

やむを得ないということはできません。

貸金業者側は、「返済期間・返済金額等の記載に準ずる記載を書くべきであったなどと言っても平成17年の最高裁判決が出るまでは、そのような義務があるなどということは明確でなく、下級審の裁判例も分かれていたんだから、主観的には、みなし弁済の規定の適用があると信じてもやむを得ない特段の事情があると言えるので悪意の受益者には当たらない。」と主張しました。

このような貸金業者の主張に対し、最高裁判所第一小法廷平成23年12月1日判決は、①リボルビング方式の貸付に係る17条書面に確定的な返済期間、返済金額等の記載に準ずる記載をすることが、貸金業法等が17条書面に返済期間、返済金額等の記載をすることを求めた趣旨・目的に沿うことや、②平成17年判決以前でも、下級審の裁判例や学説において、リボルビング方式の貸付けについて17条書面として交付する書面に確定的な返済期間・返済金額等の記載に準ずる記載がなくてもみなし弁済の規定の適用があるとの見解を採用するものが多数を占めていたとはいえないとして、貸金業者が17条書面に確定的な返済期間・返済金額等の記載に準ずる規定がなくてもみなし弁済が認められると考えてもやむを得ないとは言えず、悪意の推定は覆らないとの判断を示しました。

4 平成23年最高裁判決で悪意の受益者の問題は全て解決したのですか?

まだ解決していない部分があります。

この平成23年の最高裁判決の事案は、貸金業者が17条書面に確定的な返済期間・返済金額等の記載に準ずる記載をするよう運用を改め改定した時点で既に過払金が発生していた事案でした。

平成23年の最高裁判決は、改定時までに発生した過払金の取得については貸金業者は悪意の受益者であると推定されるとし、改定後については、改定前から取引が継続して過払の状態となり貸金債務は存在していなかったのであるから、利息が発生する余地がなく、この時期にされた制限超過部分の支払につき貸金業法43条1項を適用してこれを有効な利息の支払とみなすことはできないとしました。

逆に言うと、平成23年判決は貸金業者の17条書面の改定時に過払金が発生しておらず債務が残っていた場合についてはどうなるのかという点については触れられておらず、今後はこの点が争点になると考えられます。

しかし、そのような場合でも17条書面として借主に交付された書面の返済期間、返済金額等の記載に準ずる記載は、それまでに貸金業者の受領した制限超過部分についてみなし弁済規定の適用があるとの前提での充当計算を引き継いでいるのであり、利息制限法の正当な充当計算に従って算出される返済期間等との間にかなりの違いがあって、借主にとって今後の返済計画を立てるのに役立つものとは言えない記載になっているときは、たとえ17条書面に形式的に確定的な返済期間等の記載があるとしても、悪意の推定を覆す特段の事情を認めることはできず、貸金業者は悪意の受益者になると考えるべきではないでしょうか。